経済物理学の発見 (光文社新書)

経済物理学の発見 (光文社新書)
高安 秀樹
光文社
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経済物理学エコノフィジックス)は、物理学のテクニックを使った公開市場の振る舞いを扱う新しい学問領域である。マクロ経済学と、ミクロ経済学の中間に位置する臨界点の周辺は、ゆらぎが最も大きく、これまでは取り扱いの難しいスケールに位置していた。しかもこのあたりは、実社会の中での重要性が高いのだが、フラクタル、カオス、くりこみ理論などのテクニックを用いて、その振る舞いを明らかにしていく。同時に、物理学はとても強力なツールで、ミクロとマクロの狭間をつなげ、2つの理論を統合するので、経済の動きについて、とても見通しをよくしてくれる。

経済は身近な対象であるだけに、フラクタル、カオス、くりこみ理論などの専門的な物理の概念を理解するという、本書が目的とは反対の価値もあるかもしれない。また、デフレ脱却のためのインフレ誘導政策は、インフレ/デフレが生じるメカニズムをわかっていない、誤った、しかも危険な政策である。ミクロな市場価格を決定する方程式をくりこみ変換する手続きにおいて得られる解の特殊な場合と、、インフレのマクロな振る舞いが一致することまで詳しく述べることによって、このことを説明している。

後半は、フラクタル性を備える対象はべき分布に従っており、世の中の富の分布のように、世の中の様々なところで見られる事例を紹介する。この観測に基づいて、日本や世界が直面している経済的な問題を解決する施策を、物理学の知見に基づいて提案している。多少学問的過ぎて、世の中を支配する権力という別な力学の影響を過小に捕らえた机上の空論に見えなくもない。だが、科学的な裏づけを持った、実現すれば効果絶大なアイディアでもある。