暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
新潮社 (2001/07/31)
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「フェルマーの最新定理」に続き、サイモン・シンの著作を読む。内容への関心度がこちらのほうが高かった分、個人的には前作よりもこちらが面白かった。多くの書評が述べているように、シンの著作には、素人にもわかりやすく、技術と人物の両方にバランスよく焦点を当てつつ、読者を楽しませながらも技術が判った気になるというすばらしい技量に感服させられる。
そういうわけで、いまさら論評する気にならないくらいなので、自分への備忘録。長い暗号作成/解読のせめぎあいの歴史をよくまとめてあるが、
カエサル・シフト暗号 →アラビア数学者、頻度分析
ヴィジュネル暗号 →バベッジ、頻度の周期性
エドガー・アラン・ポー、「黄金中」
ビール暗号
ワンタイム・パッド暗号 →解読不能→鍵配送問題
エニグマ >レイェフスキ、メッセージ鍵の2回繰り返しに注目し、換字のループがプラグボードに依存せず、スクランブラーのみに依存することを手がかりに解読。
>アラン・チューリング、メッセージ鍵の2回繰り返しの前提無に解読。クリブ(カンニングペーパー)を利用。1ステップずつスクランブラー初期設定が異なるエニグマ機を連結し、「ループ」を抽出。これがプラグボートには依存しないことを発見。これによりチェックする組み合わせの数を大幅に削減。
線文字Bの解読 >コーバー鍵配送問題 >デフィー、ヘルマン、マークル(スタンフォード)
RSA暗号 >リヴェスト、シャミア、アルドマン(MIT)
>エリス、コックス、ウィリアムソン(GCHQ)
PGP >フィル・ジマーマン
量子暗号
といった内容。読んでない人にはなんだかわからないだろう。そういう人はぜひ読んでいただきたい。RSAはPGPなどの暗号ツール化されて、素人にも使いやすくなる代わりに、技術のポイントがどこにあるかわかりづらくなっているが、シンは非常にシンプルに要点を解説してくれているので、どういうわけで素数が暗号作成に役立つのか、ほかの技術文書をいくつか読むよりもずっとわかりやすい。
最後には量子コンピュータによる暗号解読の可能性と、量子暗号に関する解説がなされている。これも直感的に監督しづらい概念だけれども、見事に説明しきっている。
ただ、素数を扱うRSA暗号については、その数学は説明がされているけれども、本当にこれでイヴに解読されないかどうかの直感的説明はされていない。フェルマーの最終定理と同様、素数の特性は人間の知性では直感的な理解を超えるものなのだろう。シンをもってしても、直感的解説は困難なようだ。
なお、本書は最近文庫化された。今なら書店で平積みになっているだろう。
しかし、これだけの良書、蔵書しようと思うのであれば、ぜひ単行本で。