となり町戦争

となり町戦争 (集英社文庫)
三崎 亜記
集英社 (2006/12)
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となり町と戦争が始まる。となり町には勤務先がある。地域新聞で開戦を知りながらも、表面的には何も変わらない。しかし、確実に戦死者は出ているらしい。となり町との戦争は、地域行政が執り行うほかの事業と目的は同じで、地域振興などを目的にした事業だというが…。召集令状が届き、出頭してみれば、その担当課の女性職員と偽装結婚までして、となり町に居を移し、スパイ活動をはじめる。戦闘活動ではないながら、戦争行為に加わりつつ、その実感がない。

文章は飽きが来やすいが、ストーリーは面白い。トンデモ小説っぽいが、意外に深い。考えてみれば、何かの事業に携わっていると、知らないところで人が不利益をこうむったり、場合によっては人死にが出たりということはあるかもしれないし、逆に、戦争が国家事業としての一面があるというのもわかるところだろう。そういう高みからの視点も描かれている上に、人物ひとりひとりの、戦争に賭ける、あるいは流される思いみたいなものもあり。自分で選び取りたいと思った瞬間に、するりとそれは逃げていったり。やがて終戦を予定通りに(!)迎えるが、ひとりひとりにとっては、まだ戦いは終わっていなかったりする。

Amazon.co.jpの書評はよくないようだが、はじめから娯楽だと思って読むと、この小説が持つ、得体の知れない面白さを見つけられるかも。結局なんだったの?設定に無理がある、と疑問に思いながらも、意外とと共感するところがあったり、まあ小説だからいいかとあきらめたり、なにやら不思議な読後感に襲われる作品であった。