畑村式「わかる」技術

畑村式「わかる」技術
畑村 洋太郎
講談社
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正直、これまで畑村氏の著書は避けてきた。「失敗学」で有名だが、知識習得や活用、問題解決にそれなりの自信を持っているので、失敗からまなぶなんてことは極めて当たり前のこと。それほど当然なことに学問の名をつけるのは、ビジネスのにおいがしていやだった。

「畑村式『わかる』技術」の中では、理解の仕組みを解説しているのだが、それほど新しいということや、これまでにはなかった解説、ということもなく、言われてみればみながわかっていながら、日ごろ意識することなくすごしているようなことをことさらに説明しているものだともいえなくもない。もちろん、人が意識しなかったことを意識して考えるのはすごいことである。

この本の価値(少なくとも私にとっての)は、「原点に立ち返ること」を思い出させてくれたことである。

昔の私は、「本など読まなくても、よく考えればたいていのことは理解・実践可能」という、高慢極まりないものだった。だが反面、表層的な知識、勉強法、処世術など身につけたところで、何の役にも立たない、という点では真理をついていたとも言える。毎日無意味にメルマガやニュースをチェックする必要などどこにもない。そんなことより、頭と体を使って、論理的に考える訓練を繰り返すことのほうが重要である。

そういう原点に返り、自信を取り戻すきっかけになってくれればと思う。表層的な情報過多人間の主張など容易に論駁できるという自信である。当然、きっかけになってくれるかどうかは、今後の私の知識ではなく、思考の量に依存する。「知らないけど、それが何か?」と言えるように戻りたい。

日常から変えたい。とりあえず電車の中でpodcast聞くのをやめるか。

以下は自分向けメモ:

41ページ、大西氏の「ハートで感じる英文法」。今では類似の主張をする人や番組も出てきた。畑村式の「わかる」との共通点。

61ページ、「直観」、「直感」、「勘」の共通点と相違点。いずれもショートカット。「直感」のみが論理の飛躍がないショートカットであり、「直感」であれば、論理的に他者に説明できるはず。できないものは「直感」か「勘」。ショートカット自体が悪いのではない。むしろ効率的でよい。だが、「直感」であるべき。「直感」はどんどん蓄積し、活用すべき。蓄積するために、一度はそれを深く考える経験が不可欠。

71ページ、熱力学について。熱力学のよくないところ。現象面、表層的、表面的に熱と仕事の関係を記述した学問。「なぜそうなのか」がわからない。「マクスウェルの魔」の感想でも述べたが、いくらやっても熱力学がわかった気がしない理由がわかった気がする。

127ページ、課題設定について。妥当な課題設定は絶対的ではなく、立場等によって異なる。平社員が全社組織の改革を考えることは過大な課題設定で現実的ではなく、一方で目前の問題を解くだけでは不十分。本書では、より一般性のある課題設定を目指すべきという側面にウェイトがある。面白かったのはむしろ前者。過大な課題設定もやはり机上の空論であり、そこには陥らないように。それを解くことによって、最大のパフォーマンスが得られるようなポイントを模索すべき。

155ページ、「見ない」「考えない」「歩かない」の三ナイ主義。陥りやすい。気をつけたい。

171ページ、メモの取り方。人によって違うと思う。発言をそのまま記録したメモが生の声だからよい、という人もいるが、あまり賛成できなかった。自分は畑村派メモの取り方。少なくとも、前者だと読み返す気がしない。