博士の愛した数式
交通事故で負った脳へのダメージにより、80分しか記憶が維持できないという元数学者である博士。気難しく奇行に満ちて見えるのは、実は学者らしく思慮深く、同時に礼儀正しく、思いやりが深いがゆえに、他人を困惑させまいという配慮が生んだもの。それとわかるのは、家政婦の小学生の息子に対する、幼きものへの愛情が抑えきれずに噴出した瞬間であろう。3人の間の、互いへの思いやりが読後にさわやかさを感じさせる。
なぞに満ちた数学の魅力にただ乗りしたり、奇抜な設定だけで乗り切ろうとしたりはしていなくて、小説として感動的なものである。ただ、また整数論か、とか、また気難しそうな数学者か、という少しありきたりな面がある。