「いい家」が欲しい。

「いい家」が欲しい。、松井 修三、創英社。

家の価値とはなにか。価値観が明らかになったとき、どこに視点を置いて、どんな家を選択するのか。「住む」という基本に立ち返って、今世紀の「いい家」さがしについて主張する本である。ハウスメーカーの都合に踊らされては、必然的にいい家は手に入らないとわかっていても、対策もなければどのように探せばよいかもはっきりしない。そんな中で読んだ本なので、今後の家探しにおける方向性に大いに影響を与えた一冊だった。また、大手を含むハウスメーカーの欺瞞に満ちたビジネス、業界の歪んだ構造、法規の矛盾を暴く。本書が薦める外断熱・ソーラーサーキットの家を選択するか否かはさておき、一読の価値はある。

その一方で、主張の前提を裏付けるデータがほとんど提供されていないため、客観的に主張の妥当性を評価することができないのは、内容は読者にメリットがあるものだけに惜しい。また、従来の工法や他の新工法を、なかなかに舌鋒鋭く批判(場合によっては非難)している。これらを批判は、まさに外断熱工法が受けている批判と同じく根拠に欠け、水掛け論に見えてしまう。本当に主張が正しいなら、必要以上に攻撃的にならず、冷静にデータに基づいて比較すれば十分だったはず。良く言えば職人気質だが、悪く言えば唯我独尊的な著者の論調には、冷静な読者ならネガティブな印象をおぼえるだろう。この点でも損をしている。

この本は自費出版らしい。自費出版に踏み切ったのは、ハウスメーカーらの圧力を受けて、出版社が主張を捻じ曲げるような編集を強いるかもしれないことを危惧したためとある。そこまでして世の中に主張を伝えたいという姿勢は、賞賛に値するかもしれない。しかし、その危惧を回避することはできたが、客観性を欠いた結果になってしまった。もしまともな編集者がついていれば、客観性の不足はすぐに指摘しただろう。

著者の主張は、少なくとも一部には理解され、特に家を買う側の啓蒙の目的は達成できた。支持者が集まってきたところで、出版の専門家、法律の専門家も味方についたことだろうと思う。ユーザのことを思ってくれるなら、彼らの力も使って、もう一押しして、データを集め、冷静に反対派を論破してほしい。本当の専門家ならば、悪習や悪法に唾するのではなく、他の人たちと協力しながら業界や法律も変えていくような活動に育て、安心して家が買えるようになることを、ひとりのユーザとして望んでいる。